カミカワークプロデューサーダイアリー
「一人一人の豊かさに繋がる学びを深めていきたい」アカデミックプロデューサー・大城さんが行っている現在の活動とは?
2022.7.13 UP
こんにちは!カミカワークプロデューサーのインターンシップで上川町に来ている新谷有希です。
カミカワークプロデューサーがどのような活動をしているのかインタビューをして発信する記事を5回に渡り連載してきましたが、今回がいよいよ最終回です。
今回は、アカデミックプロデューサーとして活動されている大城美空(おおしろみく)さんにお話を伺いました。
2022年4月から活動を開始したアカデミックプロデューサーは、上川町を教育で盛り上げるために現在は幼稚園・保育園から小学校・中学校・高校の教育現場でさまざまな活動をされています。
活動開始から2ヶ月半が経過した現在、どのような活動をされているのでしょうか?
アカデミックプロデューサーの活動とは?
ー大城さんは活動における大きな目標として「上川町の一人一人の豊かさに繋がる学びを深めていきたい」という思いがあることを最初に教えてくださいました。
その上で現在取り組んでいる「学校教育」のお話を伺いました。
大城さん:学校教育に関しては、上川高校のカリキュラムをより魅力的にしていくためのサポートとして「大雪の基礎」という探究授業の実施に関わっています。
地域の人たちの困りごとと、生徒がやりたいことをなるべく繋いで、生徒たちが1人1つずつマイプロジェクトを進めています。
例えば、いま野良猫に関心があって「何とかしてあげたい」と思っている女子生徒がいます。生徒の話を深掘りしていくと、保護猫に対する活動を調べてみたいという話が出ました。
そこで、役場の担当部署である保健福祉課の方を繋いで「いま上川町ではどのような状況で、かつ毎月どれぐらいの殺処分が起きています」という現状や、「町ではこのような取り組みをしています」という現在の対策の話をヒアリングしました。
そこから「猫を捨てないでほしい」というポスターを制作したらいいんじゃないか?という話になり、生徒が中心となってプロジェクトが進んでいますね。
サポートは生徒から先生まで幅広く
ー「学校教育」において取り組んでいることは児童・生徒たちへのサポートだけではなく、先生方へのサポートとして「センセイサポート」という取り組みを始められているそうです。
大城さん:探究授業や英語、プログラミングなどいろいろな科目が増えている中で、幼稚園や小学校、中学校、高校の先生方も授業の進め方に困っていらっしゃる状況があります。
私たちは授業の設計のお手伝いをしたり、地域にはこんな方がいてどんな活動が一緒に取り組めそうかなどの協力をしていく、『センセイサポート』をしています。
例えば、幼稚園や小学校には英語を教えたことがない先生もいらっしゃいます。
先生方が英語の授業を行うにあたって「どうしたらいいのだろう」という状況の中、ALT(外国語指導助手)の先生と英語でうまくコミュニケーションが取れないといった課題がありました。
そこで私たちはALTの先生と一緒に幼稚園へ行って、4月は数字、5月は体のパーツ、6月は色…など月ごとにテーマを決めてカリキュラムをつくる提案などを一緒に進めていますね。
学校の先生方も地域の方と何かをやりたいという素敵な思いがありながらも、ずっと上川町にいらっしゃるわけではないので、地域の人との繋がりが作りづらい部分があります。
その意味で、私たちは先生と地域の方を繋ぐ役割を果たすコーディネーターのお仕事が主だなという気はしています。
「学校」から「町全体」へ。
ー 現在取り組んでいる学校教育と同時に、今後は上川町民全員が教育の対象になる「社会教育」の取り組みも行っていきたいと伺いました。
社会教育の「学び」は国語や数学などの科目を「暗記する勉強」ではないあり方だといいます。
大城さん自身が考える社会教育や、その社会教育を普及していくにあたってどのような活動をしていきたいのか、具体的な例をあげて教えてくださいました。
大城さん:社会教育は自分が社会に出て疑問に思ったことや、やってみたいことをやること全部が学びだと思っています。
その学びをともにつくっていくところは、まだまだできてないなと思うので、もっと力を入れていきたいなと思います。
私は5月に上川町の人へデンマークの『フォルケホイスコーレ』という北欧の教育機関のお話をしました。
その時間で「対話の時間」という形で訪れてくれた方とランダムに混じりながら対話をしたんですね。
私としては人々の立場やポジションなど関係なく多様な人たちが場に集って、自分の思ったことを話したり、逆に自分とは異なる意見の人の話も、頭で「違うんじゃないか」と判断するのではなく「どうしてそう思うんだろう」と興味を持ちながら聞いてみる対話の土壌を上川町全体で醸成できたらすごくいいなと思っています。
町民の方は外から来た人に対してすごくオープンで色々な取り組みを応援してくださる土壌があるので、その土壌を生かして対話をして、より新しいものを作っていくこともできたらいいなと思います。
デンマークの留学経験から考える「豊かさ」とは
ー大城さんは2021年にデンマークへ留学。デンマークは2022年の各地域の幸福度を示す幸福度ランキングで2位にランクインしました。
大城さんは幸福度とは何か考えたとき、デンマークという国全体で人間・自然の繋がりや豊かさを大切にしていることを実感したそうです。
日本に帰国してからも「デンマークと似たような場所があるのではないか」という確信を持ちつつ東京全体ではないと感じていたとき、とあるきっかけで上川町を知ったとのこと。
大城さんは、上川町はデンマークと自然環境だけではなく一人一人の「豊かさ」を大事にしている感性が似ている感覚があるそうです。ここで大城さんにとって「豊かさ」とはどのような意味なのか、率直に伺いました。
大城さん:人の数だけ、豊かさの定義があるといいなと思います。豊かさというと、まず金融資本の豊かさをイメージされる方が多い気がします。
例えば年収が高い、いい家に住んでいる、いいブランドものを持ってる…などですね。ただ、私は金融資本的な豊かさよりも社会資本の豊かさに、これからの社会づくりに必要なヒントがあると考えています。
例えば、子どもが熱を出して自分では迎えに行くことができないというときに、お金を出してベビーシッターを雇うのではなくて「ごめんうちの子を迎えに行ってくれない?」と頼める近所の人がいること。
自分が熱を出したときにしんどいなと思ったら、すぐ何か助けてくれる友達が近くにいること。そのような人と人との繋がりや温かさが社会資本だと思います。
特に私の中では「やりたいことを応援してくれる人がいる」と実感するときに「豊かだな」と感じるんですよね。
新しいことをやってみたいと言ったときに、「でも」から入られるか、「いいね」から入られるかってたいぶ心持ちが違うと思いませんか。
上川町では「いいね!それ面白そう」と思ってくれる人もたくさんいます。もちろん、ただ単に全部を受け入れてくれるわけではないです。
「それちょっとアイディア弱いと思うよ」とか「それは去年こんなのやってることあるから見てみたら?」というふうに、「良くするためにどうするか」を考える方向で皆さんが動かれてるので、そこが私の中で豊かさに繋がってるなと思います。
あと、上川町の豊かさの魅力で忘れてはいけないものは、「自然」ですよね。
気分転換に外に出たらすぐ目の前に石狩川が流れてて気持ちよく散歩ができたり、土日にハイキングに友達と行って、山の頂上でおにぎり食べたらすっきりとした気持ちになるというような自然的な豊かさもとっても大切だと肌で感じています。
まちづくり×教育
ー最後に、大城さんが今後活動していく上での目標を伺いました。
大城さん:いま町民の皆様に「上川町ってどんなまちですか?」と聞くとラーメンや大雪山という言葉はでてくるのですが、教育と答えてくれる方はわずか数%しかいません。
なので、そう答えてくださる方々を25%ぐらいまで上げたいという話をしてます。
「上川町は教育に熱い町」という言葉を町外からも言われたいし、町内からも5人に1人程度の人から言われたいです。
それは子どもだけでなくて大人の人も、上川町にいることで自分のやりたいことや新しいことに触れられて生涯学び続けることができるようになればいいなと思います。
上川町は層雲峡温泉や大雪山国立公園があり、観光でも有名な町なので、町外から来る人も毎回来るたびに自分をリフレッシュしつつ、観光だけでなく学びが深まる場所になって「上川町って面白いよね」と言ってもらえる3年間にしたいなとは思ってますね。
上川高校の魅力化という点にも触れると、町内に高校があることで移住する上で1つの選択肢にもなると思います。
例えばお医者さんが移住して診療所などを開業しようとなったときに、自分の子どもを行かせる学校が無かったら医者の方も移住しにくいと思います。
移住の選択肢の中にいい教育があることはとても大事なので、上川高校の魅力化プロジェクトは、教育の分野だけよりももうちょっと広くまちづくりの分野という意味で取り組みたいです。
アカデミックプロデューサーには、私のほかにもう1人松井さんがいます。
なので、一緒に高校生が自分のやりたいことを上川町のフィールドを使ってできたり、上川高校に行ったら絶対面白いことができるよ!という学校にしていけるように松井さんと一緒にチームで取り組みつつ、地域の人とも協力しながらやっていきたいと思います!
取材後記
「やってみたいことや挑戦したいこと」を応援してくれる雰囲気や土壌はカミカワークプロデューサーや役場の間にとどまらず、上川町という町全体に広まっていることを実感しました。
時には自分が他人から応援やサポートをしてもらい、時には自分が他人を応援・サポートをする。そういった相互関係があることで町全体が「豊か」になっていくのだろうと思います。
これまで6回にわたりインタビュー記事記事を掲載させていただきました。インタビューに応じてくださったみなさま、編集にご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました。