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プロフェッショナルサポーター コラム

地域おこし協力隊制度の専門家が見た上川町のチャレンジ
〜ゲスト:大城美空さん〜

2025.1.28 UP

人口減少が進む中で、教育の質を下げずに未来を担う子ども達をどう町全体で支えていくのか?

上川町の町全体を学園と見立て、学校だけでなく地域と連携して教育ビジョンをつくる「上川町学園構想」の運営はじめ、北海道立上川高校での地域資源を活用した探求授業の企画実施、他にも町の子どもから大人まで一貫した社会教育プログラム作りなどにアカデミック・プロデューサー(地域おこし協力隊)として関わっているのが大城美空さんです。

今回は大城さんが描く上川町の新しい学びの仕組みはもちろん、移住者である大城さんにとっての上川町での働きがい、暮らしぶりに至るまでをインタビューしました。

インタビュアーは、合作株式会社の西塔大海さん。総務省の地域おこし協力隊アドバイザーとして、全国の自治体で研修などを通じて職員と隊員にエールを送り続けている方です。

専門家の目には、大城さんや上川町の取り組みはどのように映るのでしょうか。

妄想が止まらない!町ぐるみの学び舎づくり

西塔

私は2013年に福岡県上毛町(こうげまち)の地域おこし協力隊に着任し、3年間の活動を経たのちの2015年からこの制度の伴走支援業務を始めました。これまで10年にわたって全国のさまざまな地域に関わってきましたが、なかでも多様なプレーヤーが協力隊として活動し続けている上川町は、ずっと注目していた地域の一つです。上川町ではさまざまなプロジェクトが動いていますが、なかでも「上川町学園構想」はゼロから教育ビジョンを考えるステージにあってとても興味深く感じています。大城さん、今の状況はいかがですか?

大城

そうですね。これまでの枠組みにとらわれず、自由に発想できるのが何より面白いです。資料を作りながら、町の未来を描きながら「地域のあの人とこんな相乗効果が生まれたらいいな」みたいに町の未来を妄想できますし、それをいちばん楽しんでいる自分がいます。もちろん、さまざまな立場の方の想いが錯綜するため、本当に地道に対話し続けていく必要性や、喫緊の教育課題と長期的な教育ビジョンづくりのバランスとの葛藤もありますが、やはりワクワクしていますね。

西塔

なるほど!それは楽しそうですね。具体的にはどのように設計しているのですか?

大城

教育ビジョン自体は、赤ちゃんからシニアまで「上川町で育ってよかった」と自然と思えるようになるためには、どのように学び育つのかに思いを馳せながら、それに準じて探求授業プログラムの開発や環境整備を行っていく予定です。本年度は3回ワークショップを実施しましたが、平日に3時間も、さらに学校の校長先生たちとだけでなく、今子育て中の町民や地域の居場所を運営している人たちにもお声がけし、さらに、役場の林務課・産業経済課・地域魅力創造課など「子どもの学びを共に作っているパートナー」と私たちが思える人に呼びかけて総勢30名ほどが集まって議論を深めました。立場が違うからこその衝突もありますが、背景にあるお互いの想いを聞き合いながら、上川町ならではの教育ビジョンづくりを、今まさに模索しながら作っています。

西塔

そうだったのですね。ボトムアップで対話をしながら進める、地道ですが人口が少ないからこそできる有意義な取り組みですね。私も全国いろんな地域で教育に力を入れている自治体を見てきましたが、徳島県神山町の城西高校神山校は、今の上川町にお薦めしたい事例です。役場が設立した神山つなぐ公社と魅力化に取り組んだ結果、かつて定員割れが続いていた状況が改善し、廃校の危機を脱しました。
以前は分校だったのですが、今は神山校となっていて、食や農の分野で学べる新しいコースもできているんですよ。「あゆハウス」という寮もできたことで、遠方から通う生徒が町で過ごす時間も増えました。

大城

そうなんですね!上川町でも、ゆくゆくは町外/旭川市外からも、どんどん人が学びに来られるような学園にしたいなと妄想が広がります。

協力隊を支えるNOといわないスタンス

西塔

大城さんのキャリアを拝見していて、新しい役割へのチャレンジが印象的です。やってみたことで感じた面白さ、やりがいとは?

大城

いっぱいあります! 勤めていたときは授業の中での自由度こそありましたが、既にある枠組みの中でやっていたので、枠組みから考えることはなかったんですよね。
それだけに、例えば「高校生と一緒に東京に行きたい」「社会企業を学べるスタディツアーをしたい」「ゼロカーボンを学べるキャンプをしたい」といったように、事業をゼロから企画できる面白さを何より感じています。そしてなにより、役場の皆さんからアイデアに対してポジティブなリアクションをいただけるのがうれしいです。近しい事例のお話やアドバイスをいただけて、一緒にやれる方法を探してくれています。

西塔

それは素晴らしいことですね。

大城

はい。アイデアがどれだけハードルの高いことであっても、「それは厳しいかもなー」というだけで、決してNOとはいわれないんですね。役場の皆さんもみんな打席に立っているし、背中を押してくれているという感覚があります。

西塔

私は毎日のように全国各地でたくさんの自治体職員の方々とお会いするのですが、本当にチャレンジしている役場って1%しかないというのが実感です。大城さんのその印象は、上川町役場の皆さんの地域おこし協力隊に対する姿勢そのもののように思います。

大城

上川町の職員さんは外部と積極的に関わっていらっしゃるので、外で会う機会も多いんです。そうした点も、みなさんのポジティブな姿勢を表していると感じます。
びっくりするのは、東京で働いていた時よりもいだける名刺の数が多いんですよ。しかも桁違いに。それくらい、企業の方やいろいろな方が町に関わってくださっているので、恵まれた環境だなと。

西塔

なるほど。では「上川町学園構想」がどんどん進んでいく中で、いろいろなことが具体化していくフェーズにあって、大城さんがいっしょに働きたい人材、このミッションを受け継いでほしい人材とは、どんなイメージですか?

大城

そうですね、その人材に求める役割は「コーディネーター」だとやや限定的な意味合いになるので、私はやっぱり企画を自分で創り出していく「プロデューサー」という呼称がしっくりくるように感じています。上川町には想いを持って活動する人たちが企業にも地域にも多いことが魅力なので、そうした方々とのつながりを教育ビジョンづくりや実際のカリキュラム、さらには地域活動に生かしていける、上川町のリソースを生かし合える仲間になって欲しいと思います。

西塔

1つだけ条件をあげるとすれば?

大城

「あいまいさを楽しめる人」といえばいいでしょうか。構想はまだないけど素材はいっぱいあって、「上川町はやっと教育に目が向いたね」と言われるようになった中で、みんなで手探りで侃侃諤諤しながら取り組めるようであってほしい。何を成功とするかも自分たちで定義するくらいのあいまいさを楽しんでチャレンジできる人を求めたいし、そんなメンタリティを備えてもらえたらと思います。いわゆる従来の学校の現場から、よりクリエイティブにはみ出していきたいと思える人だとぴったりかもしれませんね。 

困った時も「なんもなんも」が上川流

西塔

そんな大城さんは沖縄出身なんですよね。北海道とは気候も文化もまったく異なるかと思いますが、暮らしてみてどうですか?

大城

当たり前ですが、北海道は「寒くて雪もすごそう」という印象でした。でも、沖縄から来た私でもなんとかなった!というのが正直なところです。実際、屋内は埼玉にある祖母の家よりも暖かいし、冬になれば24時間暖房が効いています。「なんもなんも」(大丈夫だよ、気にしないでいいよという方言)という言葉があるのですが、それが冬は特に活躍するんですよ。例えば運転中に道端でエンジントラブルを起こして動けなくなっても、誰かがひゅっとやってきて助けてくれるんです。助け合わないと本当に死んでしまう危険性をみんなわかっていて、だから助け合うのが当たり前になっている。沖縄で道端で動けなくなってもおそらく死にませんからね。

西塔

それはこの地域ならではでしょうね。今回利用した宿のスタッフに移住者の方がいて、「上川町は町の機能が徒歩圏内に集まっていてとても便利だ」ともおっしゃっていました。

大城

そうなんです。中心市街地がコンパクトなので、運転しなくても歩いて用事が済ませられるのは本当に助かります。しかも、いろんな人がいろんなTIPSを教えてくれるんですよ! 雪道の歩きかたとか。それが会話のきっかけにもなるし、気付かぬうちにだんだん身についていくのも面白いんです。

西塔

会話のきっかけがTIPSというのは独特ですね! 住まいについてはどうですか?

大城

私は町の企業が従業員用に借りていた住宅に住んでいます。町には他にも、協力隊や地域活性化起業人、ワーケーション事業で来訪される人向けのシェアハウスがあったり、町内の企業が持っている従業員寮があったりもします。新しく採用する協力隊は、そうした住居を利用できる可能性もあります。

ご近所さんも移住者を包むインフラに

西塔

協力隊を志す方には家族連れの方や、パートナーのいる方も少なくありません。
そうした方々が町に来てすぐに生活が始められる住宅があるのは大きなメリットですね。雪道のTIPSの話は楽しそうでしたが、他に上川で暮らすうえではどんな楽しみがありますか?

大城

最初は友達ができるか不安だったんです。「同世代の友達っているのかな?」「話が合うのかな?」などと考えていたのですが、事前にInstagramでいろいろチェックしていたら、定期的に面白そうなことを発信している人を見つけたんですよ。絹張さん(絹張蝦夷丸さん:キヌバリコーヒー店長)や松井さん(松井丈夫さん:大雪かみかわヌクモ館長)などです。なんだか熱い人たちだなあと。移住してから半年ぐらいかけて自分を少しずつ出せるようになっていきました。友達ができる機会も身近にあって、よく「どっから来たの?」と声をかけてくれるし、月1回は役場での懇親会もあったりして。そこでは町長が真っ先にビールを開けて始めてくださるんですよ!とってもオープンだなと感じます。

西塔

それはいいですね! 関わる接点が多いのも移住者としてはうれしいですね。

大城

それとウインタースポーツを始めました!周りの経験者の人たちが初心者を連れていくことをいとわなくて、おかげで初めて登山も経験しました。
そうそう、それに家庭菜園も始めたんですよ。登山も菜園も、どれも近所のおじちゃんやおばちゃんが教えてくれて、いっしょにやってくれました。
他にも自転車にスキー、ラフティング、渓流釣り、SUP、DIYにいたるまで、ここで挑戦できることは本当にいっぱいあります。
上川町はアウトドアが好きな人にはまさしく天国ですよ。

西塔

ずいぶん満喫していますね。そうすると暮らしの不安もあまり感じられないのかなと。

大城

はい。町がコンパクトでコンビニや金融機関などが徒歩圏内にありますし、買い物はネット通販を活用しつつ、旭川まで行けば本屋さんもあります。旭川空港は小さくて、長々と中を歩かなくていいので楽なんですよ!東京との便数も少なくないので、心理的にも近い感覚です。

西塔

なるほど。もちろん冬の寒さの厳しさはあると思いますが、それも含めた楽しみかた、暮らしかたがあり、それを伝えてくれたり共有できたりする先輩や仲間もいるのは心強いですね。

馴染みのない地域の方からすれば、北海道の山間にあることで特に冬はタフな暮らしのイメージを抱くであろう上川町ですが、実際は地元の方々はもちろん、地域おこし協力隊をはじめとする移住者も含めた一人ひとりが北国ならではのライフスタイルを楽しみながら、互いに協力して日々を営んでいることがわかりました。

そして特筆すべきはその越境性。「学校とは◯◯だ」「役場とは◯◯だ」といった従来の枠組みにとらわれず、企業や移住者らがいっしょになってそれぞれのチャレンジを後押しする土壌が生まれています。
そしてそれは、また新たな企業や移住者を魅了する呼び水にもなっています。大城さんをはじめ、上川町のみなさんのこれからのチャレンジをおおいに応援したいです!

カミカワークプロデューサー(地域おこし協力隊)としての3年間、新しい働き方で、北海道上川町をプロデュースしてみませんか?