暮らしを変える「カミカワ」という新提案
2019.12.25 UP
北海道上川町への移住定住を促す事業「KAMIKAWORK(カミカワーク)」プロジェクトの一環として開催されるトークイベント「KAMIKAWORK Café」。去る11月11日、札幌市内で開催された前回に続き、今回初めて東京で開催されました。テーマは「ローカルベンチャーの可能性〜新しい働き方をカミカワで〜」。上川町で活躍する若手活動家らによる、トークセッションと講演の2部構成で開催された当日の模様をご紹介します。
それぞれが感じる、上川町の「想像以上の魅力」
会場となったのは、東京・丸の内にある「マルノウチリーディングスタイル」。「新しい働き方」をコンセプトに掲げるブックカフェで、そういったテーマの本も多く揃っています。
イベント会場入り口には、上川町で生まれたコーヒーと日本酒の試飲も用意されました。コーヒーは、上川町産の大豆を使って開発されたノンカフェインの大豆コーヒー。「神川」という日本酒は、北海道で一番新しい酒蔵が道産米にこだわって作ったもので、上川エリアに来ないと飲めない逸品です。
前半のトークセッションに登場したのは、カミカワークプロデューサーの絹張龍平さん、DIY動画クリエイターのこうじょうちょーさん、そしてインターンとして上川町で地域おこしを学んだ、大学生の勝山彩音さんの3名。状況や立場の異なる3名が、それぞれの上川町での経験をプレゼンテーションしながら、東京の会場に集まった方々の前で、上川町の魅力を語りました。
カミカワークプロデューサーの絹張龍平さんは、上川町にある廃校になった小学校をリノベーションした新施設「大雪かみかわ ヌクモ」にあるカフェで、フードプロデューサーとして活躍中。「インディーズ焙煎士」を名乗り、ヌクモで美味しい直焙煎のコーヒーを提供しています。絹張さんは北海道のオホーツク出身。今年の4月に上川町の地域おこし協力隊フードプロデューサーに応募し、一家で上川町への移住を決意したそう。
これまでも自然とローカルをテーマに様々な企画を行なってきたという絹張さんは、「地方の暮らしは質素だと思われがちだけど、とても充実している」と上川町での日々を振り返りました。「アイデアがあれば、それを聞いてもらえて、アドバイスがもらえる環境がある」ことも上川町の魅力だといい、現在も新たなプロジェクトとして、使われなくなったバスを再利用する「旅する本屋さん」を計画中だそうです。
こうじょうちょーさんは、普段ヘアメイクやクッキングなどの動画を配信しているDIY動画クリエイター。2泊3日かけて上川町を訪れた模様を、自身のYouTubeチャンネルで公開しています。同じ北海道の白老町出身ですが、上川町とはやや距離があり、とても新鮮な体験だったそう。
「じつは撮影に行く前、撮れ高にやや不安があった」と笑って話すこうじょうちょーさん。ですが実際に訪れてみると、まちの風景や、施設、食事や自然体験まで、驚きの連続で、2泊3日では回りきれず、次回はもっとゆっくり回りたいと話していました。
今年、1ヵ月以上の長期にわたって上川町での実践的な職業体験ができるインターンシップが開催されました。東京から参加したのが、大学生の勝山彩音さん。インターンシップの情報をツイッターで知り、即決で応募したそうです。福井県出身の勝山さんは、東京で大学に通う中で、地方での活動に力を入れている人々との出会いがあり、自身のバックボーンと重なり、興味を持ち始めたといいます。
取り組んだワークショップでは、「役場をかっこよくプロデュースする」というアイデアを考案。職員の服装をスーツから私服にするなど、まずは役場をかっこよくすることから、まちの魅力を高めていくという考え方を提案したそうです。取り組む中で、「役場の仕事ひとつとっても、ただパソコンしてるだけじゃないことを知った。自由で、やりたいことに協力してもらいやすい環境に感動した」と話す勝山さん。上川町で働く人々や、移住した地域おこし協力隊のメンバー、共にインターン生として滞在した仲間との出会いに多くの刺激を受けたそうです。
地域のイメージをデザインする。
後半は、龍崎翔子さんによる講演。現役の大学生として東京大学経済学部に在学しながら、上川町層雲峡で「HOTEL KUMOI」などを経営する、新進気鋭の若きホテルプロデューサーです。
「ホテルとは、異質なもの同士が出会うメディアだと思う」と話す龍崎さんは、ホテルづくりを通して、全国のローカルと向き合ってきました。上川町の層雲峡温泉街に古くからあった旅館をリノベーションした「HOTEL KUMOI」も、そのひとつ。焼畑農業的なホテルづくりではなく、まちを耕すようなホテルづくりを心がけているといいます。
龍崎さん曰く、ホテルの設計を考えることは、お客さんがそのまちにやって来るまでの旅行体験のプロセスを紐解いていくこと。マーケティングのフレームワークを旅行体験に置き換えながら、旅行体験そのものをデザインすることが重要だと話します。
地域のイメージをデザインすることも、そのひとつ。京都や沖縄など、多くの人が「行きたい」と思うまちは、まちのイメージがわかりやすく打ち出されていると龍崎さんは分析します。「翔子の思う『街のいいところ』三大悪い例」というスライドを映し出しながら、「①豊かな自然 ②暖かな人々 ③おいしい食」は、どのまちでも言えそうなことを「いいところ」と打ち出すことでユニークさを失っていると指摘し、客席には深くうなずく人が散見されました。
「HOTEL KUMOI」の場合、コンセプトは「Vapor(水蒸気)」。これは、山々に低いところまで雲が立ち込む、層雲峡でよく出会う風景をモチーフにしたものだそう。たとえば「森」というキーワードをあげても北海道らしさは伝わりそうだが、これではニセコとの差別化は難しいと、龍崎さん。より層雲峡らしさを考えた結果、「Vaporに包まれた北海道・上川町の秘境の温泉街・層雲峡」というイメージづくりにつながったのだそうです。「HOTEL KUMOI」ではシーシャ(水タバコ)が設置されていて、こういったホテル内での体験にも、地域のイメージづくりがカタチになっているのです。
そのほかにも、旅行に行く理由や、キャッシュポイント、SNSを通じた口コミのされ方など、さまざまな体験デザインのポイントを解説してくれた龍崎さん。客席の皆さんが必死にメモを取りながら話を聞く様子が印象的なひと時でした。
2020年3月のインターシップツアーでも、ツアー内講座の講師として登壇予定とのことです。どうぞご期待ください!