上川町での暮らしは、
北方の先住民族の生き方がお手本
2016年移住
- 紺野龍太さん(42) 実緒さん(35) 龍磨くん(3)
- 27歳で三重県からカナダ・バンクーバーへ渡った紺野さんは、ログハウスづくりとお面づくりを2年半学び帰国。ログビルダーとして働いていた小樽市で実緒さんと出会い、上川町へ移住。カナダ滞在中、先住民族に手ほどきを受けたお面づくりを行いながら、半自給自足の田舎暮らしと子育てを楽しんでいる。 https://www.facebook.com/ryotastyle/
自然に生かされる理想郷
紺野龍太さんの暮らしの原風景は、幼いころに見た、雪と氷に閉ざされた世界を生き抜く冒険家、植村直己と先住民族「エスキモー」の姿。「今思えば、それが僕の生きる道の始まりだった気がします」。父親の影響でカナダのログハウスづくりに興味をもった紺野さんは、27歳で現地へ。そして運命的にトーテムポールやお面の伝統工芸を継承する先住民族と出会う。
「カナダの厳しくも雄大な自然とともに生きる彼らの姿に触れ、植村直己の世界を思い出しました」
帰国して、母の故郷、小樽で仕事を得た紺野さんは実緒さんと出会い、結婚。一緒に移住先を探すうち、知人から上川町の農家住宅を紹介された。東京ドームより広い5ヘクタールの敷地は緑で覆われ、ヤマメがすむ石狩川支流が涼やかな水音を立てていた。
「この地に立った瞬間、自然の息遣いが聞こえました」
移住後、紺野さんは借りた家を住みやすく自らで改築し、工房を設けた。カナダで学んだお面づくりを開始。実緒さんも畑を耕し、30種類以上の野菜を育て、春先まで畑の恵みで暮らす。「春、野菜が採れるまでは、敷地内が天然の山菜畑になります。春はこの地の自然に私たちは生かされていると実感できる季節です」と実緒さんは笑顔で語る。
左:昭和46年建築の農家住宅をセルフビルドした自宅の暖房は薪ストーブ。右:食事の準備をする実緒さん。「ここでの暮らしは、私たちにさまざまな季節の楽しみをくれます」イイズナやキタキツネ、ヒグマ、オジロワシ、オオワシ。紺野さん一家の周りは野生生物もたくさん暮らしている。冬には雪のキャンバスに縦横無尽に命の痕跡が描かれる。「ここでの暮らしが、お面に映り込んでいます。これからもこの地で、僕でなければできない作品をつくりたいと思っています」と紺野さんは真っ直ぐな目で話してくれた。
文:森廣広絵 写真:佐々木育弥 編集:ココホレジャパン